説明不要のスポ根漫画(もう死語かな?)、井上雄彦氏作スラムダンクがめでたく30周年を迎えました。30周年とはいえ連載は既に終わって久しいのですが、未だに続編希望の声は後を絶たないですし、このように30周年が話題になるのも、この作品が単なるバスケットボール漫画にとどまらない影響力を証明しています。あらためて、スラムダンクが残してくれた軌跡と、混沌とした今の世の中にこそこの作品がいかに必要なのかを検証してみたいと思います。
スラムダンク 30周年
井上雄彦氏による『スラムダンク』は、週刊少年ジャンプに1990年から1996年に渡って掲載され、アニメ化もされました。不良少年だった主人公桜木花道、脇を固める赤木剛憲、木暮公延、流川楓、三井寿、宮城リョータ、彼らの純粋無垢なバスケットボールへの姿勢と絶対に勝つ!という執着心には、未だに、と言いますか、むしろ連載当時より心に響くものがあります。なぜスラムダンクは、未だに私達を魅了し続けてくれているのでしょうか?
スラムダンクは人生を描いていた
主人公の桜木花道は、他のプレイヤーと違ってバスケットボールのど素人。
しかしながら、彼がバスケットボールの面白さに目覚め、没頭し、異常なまでのスピードでプレイヤーとして成長していく様、桜木花道に導かれるように赤木剛憲率いる湘北高校バスケ部は、一気に全国区のチームにのし上がっていきます。
しかし、そこに辿り着くまでには幾度もの壁が立ちはだかります。
バスケ部と三井寿の確執、キャプテン赤木剛憲のケガ、素人桜木花道による敗戦、チームメイトでありながら不仲である桜木と流川。それでも彼らには、『絶対にインターハイに出場する!』という共通のベクトルがありました。
人生も同じようなもの。インターハイ出場などというハイレベルな目標までとはいかなくとも、日々の小さな目標はあるはず。そして、バスケ部に所属していなくても、人間は生きていれば何らかのコミュニティに属しているものです。家族、学校、会社などで、日々何かを目標にし、小さな目標を達成しているはずです。
そこには湘北高校のバスケ部と同じく、幾度もの壁が立ちはだかります。それでも我々は、一人ではなく仲間とともに日々闘い、勝つときもあれば負ける時もあります。それでも勝利を目指すのです。
湘北高校のバスケ部に、自分の姿を重ねながら見ていた読者も多いはず。そして、連載当時若かった自分も、社会に出てから20余年。今読み返すと、連載当時は感じ得なかった感動を覚えます。スラムダンクは人生を描いていたのです。
最後まで希望を捨てちゃいかん、諦めたらそこで試合終了だよ
2020年、世界はコロナウイルスという未知の生物との闘いを強いられています。今こそ世界が手を結び心をひとつにし、この闘いに勝つ力を試されています。スラムダンクには、この闘いに勝つための指南が示されていると思います。それは作品の中で語られる言葉です。特に印象深い言葉を紹介します。
もはや何が起きようと揺らぐことのない断固たる決意が必要なんだ
インターハイ常勝高である山王工業との試合前、前年度の山王工業の試合のビデオを見て意気消沈する湘北高校バスケ部(ただし桜木花見を除いて)。仕方がありません。スキル、経験値、そして山王工業の勝利を微塵も疑わない観客という絶対的な要素が湘北高校の前に立ちはだかります。それらを払拭させるため、安西監督は珍しく語気を強めてチームメイトに語りかけます。そして翌日、湘北高校バスケ部のメンバーの顔には自信がみなぎっているのでした。
負けたことがあるというのが、いつか大きな財産になる
インターハイ常勝高である山王工業、彼らはインターハイ2回戦で湘北高校と対戦、下馬評を覆し湘北高校は山王工業との激闘に勝利します。試合後、山王工業の堂本監督がチームに語りかけるこの言葉は、山王工業のメンバーにはどのように伝わったのでしょうか?
最後まで希望を捨てちゃいかん、諦めたらそこで試合終了 だよ
中学時代の三井寿は、県大会決勝を戦っていました。リードされていて且つ残りそ時間12秒。ここでボールがラインアウトします。三井も勝利を諦めます。しかしそのボールを拾い上げたのは偶然にも安西監督でした。その時安西監督は三井に向かって優しくこの言葉を投げかけます。その言葉に奮起した三井は逆転ゴールを決め優勝し、MVPにも輝きます。三井寿が湘北高校の安西監督のもとでバスケットボールをしたいと決意した瞬間でもありました。
また、インターハイ2回戦、山王工業に残り時間8分の時点で20点という大差をつけられます。あの桜木までもが敗戦を意識したこの時、安西監督はまたもや静かにこの言葉を桜木に語りかけるのです。そして桜木は奮起し、山王工業との8分間の激闘が始まります。
世界に向けて投げ掛けたい言葉
かなり強引な解釈かもしれませんが、これらは、コロナウイルスによって疲弊した今の世界に投げ掛けるべき言葉に思えてなりません。
日本においては、首都圏での1日の感染者数が1000人に迫る勢いです。残念ながら亡くなられた方々も3000人を超えてしまいました。全世界では亡くなられた方々が180万人に迫りつつあります。それに追い討ちをかけるかのようにウイルスの変異種が発見され、世界は今後もしばらくコロナウイルスとの闘いを余儀なくされています。
バスケットボールの試合とコロナウイルスとの闘いを同等に論じるなというご批判があるかもしれません。もちろん、そんな軽率な考えでこの記事を書いているわけではありません。
これらの言葉の本質は、今を生きている世界の人々全てに必要なものを示している気がしてなりません。
絶対にコロナに勝つ!この気持ちを改めて胸に刻んだ1日でした。
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